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$R^1$の微分構造

このノートは$R^1$の微分構造が1つしか存在しないこと、言い換えると、$R^1$を位相空間とする$C^\infty$級可微分多様体はすべて微分同相であることの証明についてまとめたものです。より一般的に1次元多様体の微分構造が1つしか存在しないことをTibor Radóが証明していますが、原著論文がドイツ語なので読むことができず、また、Milnorの『微分トポロジー講義』にある解説も行間が埋めきれなかったので、最も単純な場合の$R^1$の微分構造に限って自分なりに証明を構成してみることにしました。なので間違いが含まれている可能性が多分にあります。間違いがありましたらissuetwitterで指摘していただければ幸いです。自分の疑問点を解消することを中心にまとめたので、数学を専攻されている方には迂遠な展開になっているかもしれませんがご容赦ください。このノートが少しでも何かの参考になってくれたら嬉しいです。

1 準備

1.1 単調関数

補題 1.1
連続関数$f: I \to R$ ($I$は$R$上の開区間)が単射であるならば、$f$は狭義単調増加関数、あるいは、狭義単調減少関数のいずれかである。

(証明)
$I$上の任意の点の組$a$、$b$$(a \lt b)$を取る。$f$は単射であるから$f(a) \ne f(b)$である。今、$f(a) \lt f(b)$であるとする。$f$が閉区間$[a, b]$で狭義単調増加でないと仮定すると、$a \leqq p \lt q \leqq b$を満たす点$p$、$q$であって、$f(p) \geqq f(q)$となるものが存在する。$f(c) = f(d)$の場合は$f$の単射性に矛盾。$f(p) \gt f(q)$の場合、 さらに、$(1)f(a) \gt f(q)$、$(2) f(a) = f(q)$、$(3)f(a) \lt f(q)$の場合分けを考える。

$(2)$場合は$f$の単射性に矛盾。$(1)$の場合、$f(q) \lt f(b)$であるから$q \ne b$。よって3点$a$、$q$、$b$で$a \lt q \lt b$かつ$f(q) \lt f(a) \lt f(b)$が成り立つ。ここで、中間値の定理を閉区間$[a, q]$と$[q, b]$に適用すれば、$a < c < p < d < b$を満たす点$c$、$d$であって、$f(q) \lt f(c) = f(d) \lt f(a)$となるようなものが存在する。これは$f$の単射性に矛盾。$(3)$の場合、$f(a) \lt f(p)$であるから$p \ne a$。よって3点$a$、$p$、$q$で$a \lt p \lt q$かつ$f(a) \lt f(q) \lt f(p)$が成り立つ。ここで、中間値の定理を閉区間$[a, p]$と$[p, q]$に適用すれば、$a < c < p < d < q$を満たす点$c$、$d$であって、$f(q) \lt f(c) = f(d) \lt f(p)$となるようなものが存在する。これは$f$の単射性に矛盾。

すべての場合で矛盾するので、$f$は閉区間$[a, b]$で狭義単調増加になる。同様の議論で$f(a) \gt f(b)$のときは狭義単調減少になることがわかる。

$f$が閉区間$[a, b]$で狭義単調増加になるとき、$I$に含まれる任意の閉区間$I_c$で$f$が狭義単調増加になる。実際、開区間の定義から、$[a, b]$と$I_c$を含むような閉区間$I_c’$が存在するが、$[a, b]$における議論と同様に、閉区間$I_c’$において$f$は狭義単調増加か狭義単調減少でなければいけない。$f$が$I_c’$で狭義単調減少であるとすると$[a, b]$において狭義単調増加であることに矛盾するので、$f$は$I_c’$で狭義単調増加でなければいけない。$I_c$の範囲はいくらでも$I$に近づけることができるから$f$が狭義単調増加関数であることがわかる。

この証明はもう少し簡単にできそうな気がするのですが、私は思いつきませんでした。スマートなやり方をご存知な方はぜひ教えて下さい。

補題 1.2
$C^1$級関数$f: I \to R$ ($I$は$R$上の開区間)が狭義単調増加であり、点$p$を$f$の微分係数が$0$である任意の点とする。このとき、点$p$を含み、かつ、点$p$以外の点では微分係数が$0$にならないような開区間が存在する。

(証明)
狭義単調増加関数の定義から、$I$に含まれる開区間であって、開区間に含まれるすべての点において$f$の微分係数が$0$になるようなものは存在しない。よって$f$の微分係数が0になる点の集合を$A$とすると、$A$は離散集合となる。$I$はハウスドルフ空間であるから、点$p$の近傍$U$を十分小さく取れば、$A$に含まれる$p$以外の点が$U$に含まれないようにすることができる。この$U$が求める開区間となる。

1.2 微分同相

定理1.3
$C^1$級可微分多様体$M$の極大座標近傍系$S$は$C^\infty$級極大座標近傍系を1つ以上含む。また、この$C^\infty$級極大座標近傍系の集合の中から任意の2つを選んで$A_1$、$A_2$とする。このとき、$M$の座標近傍系を$A_1$、$A_2$それぞれで置き換えた2つの$C^\infty$級微分可能多様体$(M, A_1)$、$(M, A_2)$は必ず$C^\infty$級微分同相になる。

$C^1$級極大座標近傍系Sが$C^\infty$級極大座標近傍系を含むというのは、Sに含まれる座標近傍の集合ををうまいこと選べば、新たに$C^\infty$級極大座標近傍系を構成できるという意味です。$C^\infty$級の座標変換は当然$C^1$級でもありますので、これは直感的にも正しそうです。しかし、定理1.3の後半は驚くべき結果です。任意に選んだ$C^\infty$級極大座標近傍系$A_1$、$A_2$は一般的に同値ではありませんが、これらを座標近傍系として採用した$C^\infty$級可微分多様体$(M, A_1)$、$(M, A_2)$が必ず$C^\infty$級微分同相になることを保証しています。これは、$C^\infty$級微分同相を同値関係と見なすならば、$C^1$級極大座標近傍系$S$は1つの本質的な$C^\infty$級極大座標近傍系(微分構造)を持つということを意味します。

定理1.3は2つの$C^\infty$級微分同相な$C^\infty$級微分可能多様体$(M, A_1)$、$(M, A_2)$を$C^1$級微分可能多様体とみなしたとき、それぞれの座標近傍系が従属する$C^1$級極大座標近傍系は一致すると言うこともできます。

申し訳ありませんが証明は[Hirsch]の第2章定理2.6をご覧ください。

以降は簡単のため、座標近傍は極大座標近傍系を意味することとします(後ほどこの設定が適当か検討します)。

系1.4
2つの$C^\infty$級微分可能多様体$M$、$N$が$C^1$級微分同相ならば、$M$、$N$は$C^\infty$級微分同相である。

(証明)
$M$、$N$の座標近傍系をそれぞれ$A_M(:=\{(U_i, \phi_i)\}_{i \in \Lambda})$、$A_N(:=\{(V_i, \psi_i)\}_{i \in \Sigma})$とする。$f: M \to N$を$C^1$級微分同相写像とする。$f$で$A_N$を引き戻した集合と写像の組$\{(f^{-1}(V_i), \psi_i \circ f)\}_{i \in \Sigma}$は$M$の別の座標近傍系と見なすことができる。実際、$f$が同相写像であるから$M = \bigcup_{i \in B}f^{-1}(V_i)$であり、開集合$U(:= f^{-1}(V_i) \cap f^{-1}(V_j) \subset M)$における座標変換は、$x \in \psi_i \circ f(U)$とすると、

\[\begin{aligned} (\psi_j \circ f) \circ (\psi_i \circ f)^{-1}(x) &= (\psi_j \circ f) \circ (f^{-1} \circ \psi_i^{-1})(x) \\ &= \psi_j \circ \psi_i^{-1}(x) \\ \end{aligned}\]

であるため、$A_N$が$C^\infty$級座標近傍系という仮定から$C^\infty$級になる。この$A_N$から誘導される座標近傍系を$A_{M’}$、$M$の座標近傍系を$A_{M’}$に取り替えた多様体を$M’$とする。

$A_M$と$A_{M’}$を$C^1$級座標近傍系と見なしたとき、これらは同値になる。実際、開集合$U(:= U_i \cap f^{-1}(V_j) \subset M)$における座標変換は、$x \in \phi_i(U)$、$y \in \psi_j \circ f(U)$とすると、$(\psi_j \circ f) \circ \phi_i^{-1}(x)$と$\phi_i \circ (\psi_j \circ f)^{-1}(y)$はいずれも$C^1$級になる。よって$A_M$と$A_{M’}$は同じ$C^1$級極大座標近傍系$S$に従属する。

さて、$A_M$と$A_{M’}$を再び$C^\infty$級座標近傍系と見なせば、これら2つは$S$に含まれる$C^\infty$級座標近傍系であるから、定理1.3より、$C^\infty$級微分同相写像$g: M \to M’$が存在する。$C^\infty$級写像の定義から、$M$の任意の点$p$において、$p$を含む座標近傍$(U_p, \phi_p)$と$g(p)$を含む座標近傍$(f^{-1}(V_p), \psi_p \circ f)$であって、$g(U_p) \subset f^{-1}(V_p)(\Leftrightarrow f \circ g(U_p) \subset V_p)$かつ$g$の局所座標表示が$C^\infty$級であるものが存在する。具体的には、$x \in \phi_p(U_p)$とすると$(\psi_p \circ f) \circ g \circ \phi_p^{-1}(x)(=\psi_p \circ (f \circ g) \circ \phi_p^{-1}(x))$が$C^\infty$級になる。

逆に、$M’$の任意の点$q$において、$q$を含む座標近傍$(f^{-1}(V_q), \psi_q \circ f)$と$g^{-1}(q)$を含む座標近傍$(U_q, \phi_q)$であって、$g^{-1} \circ f^{-1}(V_q) = (f \circ g)^{-1}(V_q) \subset U_q$かつ$g$の局所座標表示が$C^\infty$級であるものが存在する。具体的には、$y \in (\psi_q \circ f) \circ f^{-1}(V_q)(=\psi_q(V_q))$とすると$\phi_q \circ g^{-1} \circ (\psi_q \circ f)^{-1}(y)(=\phi_q \circ (f \circ g)^{-1} \circ \psi_q^{-1})$が$C^\infty$級になる。 ここで、$M$と$M’$が位相空間としては同一であるため、$f$が$M’$と$N$の同相写像でもあることを考えると、$N$の任意の点$q_N$において、$q_N \in V_q$となるような点$q(\in M’)$を選ぶことができる。

以上の結果を整理する。$F = f \circ g: M \to N$とする。$f$と$g$は同相写像であるから$F$も同相写像である。また、$M$の任意の点$p$において、$p$を含む座標近傍$(U_p, \phi_p)$と$F(p)$を含む$N$の座標近傍$(V_p, \psi_p)$であって、$F(U_p) \subset V_p$かつ$F$の局所座標表示が$C^\infty$級であるものが存在する。逆に、$N$の任意の点$q$において、$q$を含む座標近傍$(V_q, \psi_q)$と$F^{-1}(g)$を含む$M$の座標近傍$(U_q, \phi_q)$であって、$F^{-1}(V_q) \subset U_q$かつ$F^{-1}$の局所座標表示が$C^\infty$級であるものが存在する。よって$F$は$C^\infty$級微分同相写像であり、$M$と$N$は$C^\infty$級微分同相である。

確認1.5
微分構造について考えるとき、座標近傍系は極大座標近傍系で考えて良い。

$M$、$N$を位相空間、$A_M$、$A_N$を座標近傍系とし、$(M, A_M)$、$(N, A_N)$が$C^r$級可微分多様体であるとします。また、$A_M$と$A_N$の極大座標近傍系をそれぞれ$S_M$、$S_N$とします。もし、『$(M, A_M)$と$(M, A_N)$が$C^s$級微分同相 $\Leftrightarrow$ $(M, S_M)$と$(M, S_N)$が$C^s$級微分同相』($0 \le s \leqq r$)が成り立つのであれば、常に極大座標近傍系で考えてもよさそうです。しかし、$(\Rightarrow)$は自明ですが、逆は一般には成り立ちません。仮に$A_M = \{(U_1, \phi_1)\}$、$A_N= \{(V_1, \psi_1), (V_2, \psi_2)\}$$(N \neq V_1 \land N \neq V_2)$であるとすると、どんな同相写像$f: (M, A_M) \to (N, A_N)$を持ってきたとしても、$f(U_1)$が$V_1$と$V_2$をはみ出してしまうので、$(M, A_M)$と$(N, A_N)$は微分同相にはなりえません。しかし、$A_M$と$A_N$を自然に拡張することでこの問題を回避できます。

$f$を$(M, S_M)$と$(N, S_N)$の$C^s$級微分同相写像とし、$(M, S_M)$の任意の点$p$における座標近傍を$(U_s, \phi_s)$、$f(p)$を含む$(N, S_N)$の座標近傍を$(V_s, \psi_s)$とします。$S_M$は極大座標近傍系なのでいくらでも小さい座標近傍が含まれています。ここでは$U_s$が十分小さく$f(U_s) \subset V_s$であるとします。さらに$U_s$を十分小さく取れば、開集合$U_s$を$A_M$のいずれかの座標近傍に含ませることができます。この座標近傍を$(U_a, \phi_a)$とします($U_s \subset U_a$)。

$\phi_a$を$U_s$で制限した写像$\phi_a|_{U_s}$と$U_s$で$A_M$の新しい座標近傍$(U_s, \phi_a|_{U_s})$を構成することができます。実際、$\phi_a|_{U_s}$の座標変換が$C^s$級であることは$(U_a, \phi_a)$が確かめてくれていますので、無理なく$A_M$に追加することができます。元々ある座標近傍の局所座標系の定義域を制限するだけなので、この$A_M$の拡張は自然であると言えます。同様にして、$A_N$にも新しい座標近傍$(V_s, \psi_a|_{V_s})$を追加します。これらの新しい座標近傍系は極大座標近傍系の定義から$S_M$と$S_N$には最初から含まれています。

ここで、$p$を$(M, A_M)$の点と見なした場合の$f$の局所座標表示を考えてみます。先程追加した座標近傍を使えば、$x \in \phi_a|_{U_s}(U_s)$における局所座標表示は

\[\begin{aligned} & \quad \psi_a|_{V_s} \circ f \circ (\phi_a|_{U_s})^{-1}(x) \\ &= \psi_a|_{V_s} \circ id_N \circ f \circ id_M \circ (\phi_a|_{U_s})^{-1}(x) \\ &= \psi_a|_{V_s} \circ (\psi_s^{-1} \circ \psi_s) \circ f \circ (\phi_s^{-1} \circ \phi_s) \circ (\phi_a|_{U_s})^{-1}(x) \\ &= (\psi_a|_{V_s} \circ \psi_s^{-1}) \circ (\psi_s \circ f \circ \phi_s^{-1}) \circ (\phi_s \circ (\phi_a|_{U_s})^{-1})(x) \end{aligned}\]

となります。$\psi_s \circ f \circ \phi_s^{-1}$は$\phi_s$と$\psi_s$の定義から$C^s$級です。また、$\psi_a|_{V_s} \circ \psi_s^{-1}$と$\phi_s \circ (\phi_a|_{U_s})^{-1}$はそれぞれ$S_M$と$S_N$における座標変換であることを考えれば、$C^s$級($C^r$級)であるとわかります。よって$(M, A_M)$においても$f$の$p$における局所座標表示は$C_s$級であることがわかります。点$p$は任意に取れるので、$f: (M, A_M) \to (N, A_N)$が$C^s$級であることが示せました。$f^{-1}$についても同様に$C^s$級であると示すことができます。

以上から、$A_M$と$A_N$を自然に拡張し、$S_M$と$S_N$から微分構造を教えてもらえば$(\Leftarrow)$も成立します。必要があれば微分同相になるよういつでも座標近傍系を拡張できるとわかったので、便利な極大座標近傍系を遠慮なく使えるようになりました。

確認1.6
微分構造について考えるとき、座標近傍系は$C^\infty$級で考えて良い。

再確認ですが、座標近傍系は極大座標近傍系を意味しています。さて、微分構造について考えるとき、座標近傍系は通常$C^\infty$級で考えますが、$C^r$級座標近傍系$(0 \lt r < \infty)$の微分構造はどう扱えばいいのでしょうか。確認1.5と同じように、多様体$(M, S_M^r)$、$(N, S_N^r)$、$(M, S_M^\infty)$、$(N, S_N^\infty)$を考えてみます。ただし、$S_M^r$は$C^r$級の座標近傍であって$C^\infty$級座標近傍系$S_M^\infty$を含んでいるとします($N$の座標近傍系についても同様)。実はこのとき、『$(M, S_M^\infty)$と$(N, S_N^\infty)$が$C^k$級微分同相 $\Leftrightarrow$ $(M, S_M^r)$と$(N, S_N^r)$が$C^l$級微分同相』($k$と$l$は$0 \lt k$、$0 \lt l \leqq r$を満たす任意の整数)が成り立ちます。証明はほぼ自明です。$(\Rightarrow)$は系1.4を使えば$C^\infty$級微分同相写像$f: (M, S_M^\infty) \to (N, S_N^\infty)$が存在することがわかるので、この$f$を$(M, S_M^r)$と$(N, S_N^r)$の同相写像と見なせば、これが$S_M^r$と$S_N^r$において少なくとも$C^r$級であることはすぐわかります($S^\infty$に含まれる座標近傍はすべて$S^r$に含まれているので、$S^\infty$の座標近傍を経由して$C^r$級の座標変換を行えば、$S^r$の任意の座標近傍で$f$は$C^r$級になります)。$(\Leftarrow)$はほぼ系1.4そのものです。$(M, S_M^r)$と$(N, S_N^r)$の$C^l$級微分同相写像$g$を$(M, S_M^\infty)$と$(N, S_N^\infty)$の微分同相写像と見なせば$(M, S_M^\infty)$と$(N, S_N^\infty)$が$C^l$級微分同相であることがわかり、系1.4を使えばただちに$(M, S_M^\infty)$が$(N, S_N^\infty)$が$C^\infty$級微分同相であることがわかります(つまり$C^k$級微分同相です)。

系1.4、確認1.5、確認1.6をまとめると、以下のことがわかります。

確認1.7 微分構造について考えるとき、$C^\infty$級極大座標近傍系をもつ多様体間の$C^1$級微分同相性を調べれば十分である。

多様体が$C^\infty$級極大座標近傍系を持っていないのであれば、与えられた座標近傍系の極大座標近傍系に含まれる$C^\infty$級座標近傍系で座標近傍系を取り替えれば問題ありません。後は、多様体同士が$C^1$級微分同相であるかを調べれば、すべての微分可能性のクラスにおける微分同相性を調べることと同義になります。よって、多様体の微分構造の同値関係を調べるときは$C^\infty$級可微分多様体の$C^1$級微分同相性という最も簡単な設定で行えばよいとわかります。

2. 本論

それではいよいよ$R^1$の微分構造が1つしか存在しないことを証明していきます。$R^1$を位相空間とするすべての$C^\infty$級可微分多様体と標準的な微分構造を入れた$R^1$の間に$C^1$級微分同相写像が存在することを示すのが目標です。多様体としての$R^1$と局所座標系の値域としての$R^1$が紛らわしいので、以降は前者を$R_U$や$R_V$、後者を$R$と表記します。

補題2.1
$R_U$の$C^\infty$級座標近傍系に含まれる部分集合$A$であって、$A = \{(I_i, \phi_i) | \phi_i は狭義単調増加関数 \land \phi_i(I_i) = R\}_{i \in \Lambda}$であり、$R_U = \bigcup_{i \in \Lambda}I_i$を満たすものが存在する。

(証明)
多様体の定義から$R_U$を被覆する座標近傍の集合を取れる。この集合に含まれる任意の座標近傍$(I_i, \phi_i)$について以下の処置を行って、集合$A$の要素とする。

【処置1】$\phi_i$が狭義単調減少関数であるならば、関数$f_1(x) = -x$を合成する。
$f_1$は$C^\infty$級微分同相関数であるから開区間と集合の組$(I_i, f_1 \circ \phi_i)$も$R_U$の座標近傍系に含まれる。また、$f_1$は狭義単調増加関数であるから、$f_1 \circ \phi_i$も狭義単調増加関数になる。以降、$f_1 \circ \phi_i$を再び$\phi_i$と表記する。

【処置2】$\phi_i$に関数$f_2(x) = \tanh(x)$を合成する。
$f_2$は$C^\infty$級微分同相関数であるから開区間と集合の組$(I_i, f_2 \circ \phi_i)$も$R_U$の座標近傍系に含まれる。また、$f_2$は狭義単調増加関数であるから、$f_2 \circ \phi_i$も狭義単調増加関数になる。さらに、$f_2 \circ \phi_i$の値域はある実数$a$、$b$$(a \lt b)$を用いて開区間$(a, b)$と表現できる。以降、$f_2 \circ \phi_i$を再び$\phi_i$と表記する。

【処置3】 $\phi_i$に関数$f_3(x) = \frac{2}{b - a}(x - \frac{a + b}{2})$を合成する。
$f_3$は$C^\infty$級微分同相関数であるから開区間と集合の組$(I_i, f_3 \circ \phi_i)$も$R_U$の座標近傍系に含まれる。また、$f_3$は狭義単調増加関数であるから、$f_3 \circ \phi_i$も狭義単調増加関数になる。さらに、$f_3 \circ \phi_i$の値域は開区間$(-1, 1)$となる。以降、$f_3 \circ \phi_i$を再び$\phi_i$と表記する。

【処置4】$\phi_i$に関数$f_4(x) = \tanh^{-1}(x)$を合成する($\tanh^{-1}$は$\tanh$の逆関数)
$f_4$は$C^\infty$級微分同相関数であるから開区間と集合の組$(I_i, f_4 \circ \phi_i)$も$R_U$の座標近傍系に含まれる。また、$f_4$は狭義単調増加関数であるから、$f_4 \circ \phi_i$も狭義単調増加関数になる。さらに、$f_4 \circ \phi_i$の値域は$(-\infty, \infty)$となる。座標近傍$(I_i, f_4 \circ \phi_i)$を最終的な処置済みの座標近傍として$A$に追加する。

処置の流れから明らかなように、集合$A$は題意を満たす集合となっている。

補題2.1を満たす座標近傍(の集合)を用意しておくことで、$\phi^{-1}: R \to R_V$を$\phi^{-1}: R_U \to R_V$とする写像として転用することができるようになります。

命題2.2
$R^1$を位相空間とする任意の$C^\infty$級可微分多様体は標準的な微分構造をもつ$R^1$に$C^1$級微分同相である。

(証明)
標準的な微分構造をもつ$R^1$を$R_U$、$R_U$の$C^\infty$級座標近傍系を$S_U$とする。$S_U$は座標近傍$(R_U, id_{R^U})$を含む極大座標近傍系である。また、$R_V$を任意の$C^\infty$級座標近傍系を持つ$R^1$の多様体とし、その座標近傍系を$S_V$とする。さらに、補題2.1の条件を満たす$S_V$の部分集合を$A_V$とする。

1つだけで$R_V$を被覆するような座標近傍$(R_V, \phi_V)$が$A_V$の要素として存在する場合、$\phi_V^{-1}: R \to R_V$を$\phi_V^{-1}: R_U \to R_V$となる同相写像と見なせば、$\phi_V^{-1}$の座標近傍$(R_U, id_{R_U})$と$(R_V, \phi_V)$による局所座標表示は$id_R$となり$C^1$級になる。逆写像も同様に$C^1$級となる。よって、$\phi_V^{-1}$は$C^1$級微分同相写像であり、$R_U$と$R_V$は$C^1$級微分同相となる。

$A_V$の1つの要素だけでは$R_V$を被覆できない場合を考える。2つ以上の座標近傍で初めて$R_V$を被覆できるので、$A_V$に含まれる座標近傍$((I_1, I_3), \phi_1)$、$((I_2, I_4), \phi_2)$であって、$I_1 \lt I_2 \lt I_3 \lt I_4$を満たすものが存在する。

座標変換$\phi_2 \circ \phi_1^{-1}: \phi_1((I_2, I_3)) \to \phi_2((I_2, I_3))$は狭義単調増加関数の合成であるから、再び狭義単調増加関数となる。よって補題1.2から、この座標変換の微分係数が正の値$a$を取るような$\phi_1((I_2, I_3))$の点$\phi_1(q)$が存在する(ただし$q \in (I_2, I_3)$)。座標近傍$((I_2, I_4), \phi_2)$を別の座標近傍$((I_2, I_4), a^{-1}\phi_2)$で取り替えて同じ議論を繰り返せば、点$\phi_1(q)$における$\phi_2 \circ \phi_1^{-1}$が微分係数が$1$であると考えてよい。取り替えた後の座標近傍$((I_2, I_4), \phi_2)$をさらに別の座標近傍$((I_2, I_4), \phi_2 + \phi_1(q) - \phi_2(q))$で取り替えれば、ある実数$p$が存在して$\phi_1(q) = \phi_2(q) = p$であると考えてよい。

$\phi_1^{-1}$と$\phi_2^{-1}$を写像$R_U \to R_V$と見なして、写像$F: R_U \to (I_1, I_4)$を以下のように定義する。

\[F(x) = \begin{cases} \phi_1^{-1}(x) \quad (x \lt p) \\ q \quad (x = p) \\ \phi_2^{-1}(x) \quad (x \gt p) \end{cases}\]

$\phi_1$と$\phi_2$の定義から$F$は$R_U$と$(I_1, I_4)$の同相写像となる。$R_U$の座標近傍として$((-\infty, \phi_2(I_3)), id_{R^U})$、$R_V$の座標近傍として$((I_1, I_3), \phi_1)$を選んだときの$F$の局所座標表示$F_L: R \to R$は

\[F_L(y) = \begin{cases} id_R(y) \quad (y \lt p) \\ p \quad (y = p) \\ \phi_1 \circ \phi_2^{-1}(y) \quad (y \gt p) \end{cases}\]

である。また、逆関数の定理を使えば

\[\left.\frac{d}{dy}(\phi_1 \circ \phi_2^{-1}(y))\right|_{y=p} = \left(\left.\frac{d}{dz}(\phi_2 \circ \phi_1^{-1}(z))\right|_{z=p})\right)^{-1} = 1\]

である。$R_U$の座標近傍として$((\phi_1(I_2), \infty), id_{R^U})$、$R_V$の座標近傍として$((I_2, I_4), \phi_2)$を選んだときの$F$の局所座標表示についても同様の議論ができるから、$F$は$C^1$級写像である。同様に$F^{-1}$についても$C^1$級が示せる。よって$R_U$と$(I_1, I_4)$は$C^1$級微分同相である。

$(I_1, I_4)$と交わる$A_V$の座標近傍に$\phi_2$と同様の調整を与えて、局所座標系の逆写像を$F$に貼り合わせていけば、$F$の値域を$\pm\infty$方向にいくらでも拡張できる。よって$R_U$と$R_V$は$C^1$級微分同相である。

系1.4と命題2.2から、$R^1$を位相空間とする$C^\infty$級可微分多様体は微分同相なものを除いて1つしかないことが証明されました。

参考文献